第106章

安野家の人間の話が出た瞬間、木山夏子の瞳に、かすかな不安と憎悪が走った。

安野家は――本当に、面の皮が厚い。

『本人は知らないの。もし知ってたら、こんなもの、私の手に渡るはずないでしょ』

そう言って、安野香苗は小さな箱を指で撫でた。

それは、彼女が安野弘人の浮気を突き止め、証拠を突きつけて無理やり吐き出させたものだった。

そうでもしなければ、母の形見を取り戻す機会なんてなかっただろう。

下手をすれば、安野家の別の人間に気づかれて、さらに厄介なことになっていたはずだ。

だから――少しだけ、運が味方したと思えた。

安野弘人の浮気は、ある意味「助かった」。

胸の奥で、そんな毒々し...

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