第32章

安野香苗が再び目を開けたとき、窓の外はすでに深夜だった。

そっと腕を動かしてみる。――驚いたことに、体を縛っていた布は、さっきみたいにきつく巻き直されていない。

鎮静剤を打った看護師が、うっかり忘れたのかもしれない。

理由はどうあれ、安野香苗は胸の奥でほっと息をついた。

布の隙間から手首をすっと抜き取り、足首の結び目も手早くほどく。

深く息を吸い込み、音を立てないように神経を研ぎ澄ませたまま、忍び足でドアへ近づいた。

患者の様子をすぐ確認できるよう、扉には小さな覗き窓がある。香苗は気配を殺して顔を寄せ、ガラス越しに廊下を窺った。――誰もいない。

張りつめていた心が、少しだけ緩む...

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