第38章

「司、リリに何かあったの?」

安野香苗は小首をかしげ、まじめな顔で江原司の目を覗き込み、返事を待った。

「べ、別に……何もない」

江原司はやましいのか、視線をすっと逸らす。

その様子を見て、香苗は口元に含み笑いを浮かべたまま、ひとり言みたいに続けた。

「でもさ、リリってあんなに綺麗なのに、これまでの二十年はほんとに可哀想だったんだよ。家族に大事にされなくて……本人が優秀で、運もよかったから大学に行けただけ。そうじゃなきゃ、絶対無理だったと思う」

香苗はふう、と息を吐いた。白原リリの境遇を思うと、胸が痛むのだとでも言うように。

「リリみたいに頭がよくて前向きな子って、もし家庭環境...

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