第56章

安野香苗はわずかに表情を曇らせた。

「野原恒夫。今の話、本当なの?」

問い詰められた野原恒夫の顔に、さっと狼狽がよぎる。

「お、俺は……もう大丈夫だと思って。先に取引先へ送っておけば、そのぶん話も早くまとまるかと……」

「私、言ったわよね。最終確認が済んで、問題ないと確定してから送るようにって。あなた、確認したの?」

その瞬間、安野香苗ははっきりと怒っていた。冷えた目で見据えると、相手の様子だけで分かる。――確認などしていない。

案の定、野原恒夫は気まずそうに視線を揺らした。

「どこの数字が間違ってるの。見せて」

胸の奥で煮え立つ怒りを無理やり押し込み、安野香苗が言う。すると...

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