第8章

安野香苗が扉を押し開けると、リビングは真っ暗だった。

眉をわずかに寄せ、手探りでスイッチを押す。次々に灯りが点き、白い光がぱっと弾けた。眩しさに反射的に顔を背け、手で目元を覆う。

ようやく光に慣れて見回しても、広い別荘はがらんとしている。人の気配が、どこにもない。

静けさが――妙に不吉だった。

香苗はスマホを取り出し、江原司に発信する。

繋がった瞬間、問いかけるより先に、向こうから焦った声が飛び込んできた。

「今日、翔太の誕生日だろ。店を予約してさ、そこで――」

その言葉の合間に、女の甘ったるい拗ね声が混じる。生々しく耳に刺さり、鼓膜が痛むほどだった。

香苗は拳をぎゅっと握り...

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