第207章

 そこまで触ってしまってから、ようやく黒田謙志の胸の奥に、かすかな良心と呼べるものが顔を出した。

 ――これは、さすがに火事場泥棒ってやつなんじゃないか。

 もし中村奈々が正気に戻ったら、二度と口もきいてくれないかもしれない。

 そう思ったのも、ほんの一瞬だけだった。

 どうせ、火事場泥棒も一度や二度じゃない。

 そもそも酒の勢いがなきゃ、彼女が自分なんか構おうともしないのは分かりきっている。

 シャツを脱ぎ捨てると、鍛え上げられた胸板が車内の薄暗がりに浮かび上がる。滑らかに流れる筋肉のライン、腹部にはきっちりと刻まれた筋。

 中村奈々はとっくにアルコールに理性を奪われ、本能だ...

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