第258章

「中村さん、お薬です」

 看護師が病室のドアを開けたとき、運悪くそんなきまりの悪い光景に出くわしてしまった。

 黒田謙志は中村奈々から身を離すと、看護師の手から薬瓶を受け取り、蓋をひねって開け、それを中村奈々の口元へと運んだ。

 すらりと伸びた指は、ひんやりとしていた。中村奈々はその指を一瞥すると、すぐに視線を逸らした。

 彼の指の腹が、彼女の柔らかな唇を掠める。

 痺れるような感覚が、身体の隅々まで駆け巡った。

 黒田謙志は瞳の色をわずかに暗くし、低く、色気を孕んだ声で命じた。

「口を開けろ」

 中村奈々が反射的に口を開くと、消炎剤が喉の奥へと滑り込む。流れるような一連の動...

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