第280章

「用がある」

黒田謙志がドアを開け、長い脚を滑り込ませようとしたその瞬間、森田美波が矢のように駆け寄った。彼女はドアを死に物狂いで掴み、潤んだ瞳で、泣きそうな声を絞り出す。

「一体どこへ行くつもり? まさか、あの女のところへ?」

黒田謙志の顔には、隠そうともしない苛立ちが滲んでいた。誤魔化す気すら失せている彼は、単刀直入に答えた。

「そうだ」

「でも……お祖父ちゃんがまだいらっしゃるのよ? 食事くらいご一緒しないと、機嫌を損ねてしまうわ。知ってるでしょ、お祖父ちゃんがそういう礼儀にどれだけ厳しいか」

森田美波は年長者の威光を借りて、彼を引き止めようとした。

「あいつがトラブルに...

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