第69章 彼女はただもっとお金を騙し取ろうとしているだけ

携帯から聞こえてくるツーツーという音に、中村奈々はしばし呆然としていたが、やがて力ない笑みを浮かべた。

もちろん、彼女とてこのまま終わりにしたかったわけではない。

斉藤真由美が大勢の前であれほど彼女を罵り、怪我まで負わせたのは、自分の家柄が彼女より上だということを笠に着ていただけではないか。

もしこのまま穏便に済ませてしまえば、それは自分が虐げられても、他人に踏みつけられても構わない、御しやすい人間だと認めることになるのではないか。

だが、彼女にどんな手が打てるというのだろう。

父に不幸があってからというもの、彼女を守ってくれる者など誰もいなくなったのだ。

黒田謙志ですら、今回彼...

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