第12章

胃の中がぐらぐらと掻き回される。新谷卿華は洗面台に身を乗り出してえづいたが、吐けたのは何もない。喉の奥に、酸っぱく苦い胃液の気配だけがじわりと広がっていく。

額を伝う冷や汗がぽたぽたと落ち、視界がにじむ。死の縁に触れたような恐怖が背筋を這い、身体が勝手にがたがたと震えた。

そのとき、トイレの扉が外から押し開けられた。

むっとするほど濃い、甘ったるい香水の匂い。

須藤郁夜だった。

須藤郁夜はヒールの音を響かせ、優雅に洗面台へ歩み寄る。鏡越しに、みっともなく崩れた新谷卿華の姿を視界に入れると、唇の端をつり上げた。

「まあ。新谷さんじゃない。勤務時間にトイレでサボり? これ、真淵に知れ...

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