第23章

立花真淵の胸の奥に燻っていた、あの薄暗い快感は――彼女のどこ吹く風といった態度に、たちまち冷水を浴びせられた。

視線が、華奢な背中からすとんと落ちる。彼女の手に握られている銀色のスーツケース。

その瞬間、顔色がすっと沈んだ。

「止まれ」

真淵は長い脚でエレベーターをまたぐように踏み出し、新谷卿華の前に立ちはだかる。

「荷物なんか持って、どこ行くつもりだ」

新谷卿華は足を止めざるを得なかった。右足首が疼いて、かすかに震えが走る。

「あなたには関係ない」

吐き捨てるような声音。

「関係ない?」

真淵が鼻で笑う。陰に沈んだ目が彼女を射抜いた。

「こんな時間にスーツケース引きず...

ログインして続きを読む