第30章

木下青は恩赦でも受けたように、逃げるようにしてオフィスを飛び出していった。

立花真淵は椅子の背にもたれ、湯気の立つ安物のコーヒーを眺めた。胸の奥で燻る苛立ちは、ますます強くなるばかりだった。

ネクタイを乱暴に引きゆるめ、少しでも呼吸を楽にしようとする。だが、何かを根こそぎ奪われたような虚ろな感覚は、どうしても振り払えない。

ずっと思っていた。新谷卿華なんて、自分の生活に置いてあるだけの、いてもいなくても同じ飾りにすぎないと。

けれど今になって、思い知らされた。

あの女は、いつの間にか自分の日常の隙間という隙間にまで入り込んでいたのだ。

そして彼女が消えた今、その隙間はすべて冷たい...

ログインして続きを読む