第154章 あーさん

夏目凛は、電話の向こうで橘彩花が八百メートルでも走ってきたみたいに息を切らしているのを聞きながら、口元をわずかに緩めた。

「彩花、落ち着いて」

「落ち着いてるし? 別に怒ってないし!」橘彩花の声は相変わらずやたら大きい。けれどさっきより棘は少し丸くなっていた。「ただ、あいつのあの態度がムカつくの! 会えば口は悪いくせに、裏ではコソコソ回りくどいことばっかして……いったい何がしたいわけ!」

「ほんとに、昔話でもしたいだけかもよ。長い付き合いなんだし」

「昔話ぁ?」彩花は鼻で笑った。「凛、あいつがうちの兄貴の前で私のこと何て呼んでるか知ってる?」

「何て?」

「『彩花さん』」

彩花...

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