第38章 引っ越す

電話を切ると、彼は身体を後ろへ預け、広い本革のエグゼクティブチェアに深く沈み込んだ。ずしり、と鈍い音。

離婚協議書。

あの女、本当に原本を送りつけてきやがった。

新しい手口に決まってる。ガス中毒だの、トレンドだの、今度は離婚協議だの――ぜんぶ繋がっている。こうやって追い詰めて、屈服させて、折れさせて、名取心美を俺の前から追い払わせるつもりだ。

いいだろう。上等だ。

国分礼二は内線を取り、氷みたいに冷えた声で言った。

「広報部長を入れろ」

広報部長は、ほとんど転がり込む勢いで駆け込んできた。額には冷や汗。

「国分社長、トレンドの件は我々が――」

「もう抑えなくていい」

国分...

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