第50章 原本

国分礼二が別荘に戻ったのは、すでに深夜だった。

灯りは点けない。窓から差し込む薄い月明かりだけを頼りに、彼はまっすぐキッチンへ向かい、水でも飲もうとした。

そこで目に入ったのは、細い背中。

名取心美が、こちらに背を向けて立っている。

国分礼二は反射的に眉をひそめ、今すぐ追い出してやろうと口を開きかけ――その視線が、ふいに止まった。

心美の腰に結ばれているのは、エプロン。

淡い水色に、白い小さな雛菊が散った木綿のエプロンだった。

夏目凛の――。

何度も見てきた。あの女がそれを身につけ、キッチンで静かに手を動かし、彼のために食事を用意していた姿を。

どうでもいいと、目も向けてこ...

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