第29章

長身の人影が入り口に佇んでいた。光に逆らい、顔がはっきりと見えなかった。

山田澪は無意識のうちに手の中の皿を握りしめた。

山田澪は彼がなぜ突然自分を探しに来たのか分からなかった。今頃は夏目彩と一緒にいるはずではなかったのか?

「遊び足りた?」彼が口を開いた。声はいつもと変わらなかった。

彼女が半月以上も姿を消したのに、彼の目には、ただの遊びに過ぎないのだ。

女将は少し戸惑い、二人の間で視線を彷徨わせた。

「澪ちゃんのどなたですか?」女将は思わず尋ねた。

「私は彼女の夫です」

女将は驚いて口をパクパクさせた。これは彼女の想像と違っていた。山田澪の夫は...怠け者で、だらしない男...

ログインして続きを読む