第54章

山田澪はためらっていた。入院すれば北村健に知られてしまう。

医師は彼女の躊躇いを見抜き、「入院できないなら、流産防止の薬を処方しておきます。定期的に検査を受けて、赤ちゃんが無事かどうかは運次第ですね」と言った。

山田澪はうなずいた。昨日、北村健が彼女の携帯電話を取り上げた時、彼女はほとんど絶望していた。

今、わずかな希望があるのも、仏の慈悲だと思った。

医師が処方箋を書き、山田澪は薬を受け取って、病院を出ようとした時、突然北村の奥さんを見かけた。

北村の奥さんは子供を抱き、誰かを待っているようだった。

山田澪は反射的に手の中の薬と処方箋を握りしめ、頭を下げたまま北村の奥さんを避け...

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