第39章

聞き覚えのある口調、どこか見覚えのある目元。千枝は一瞬、ふっと意識が遠のくような感覚に陥った。

「……お兄ちゃん?」

次の瞬間、彼女は悠に横抱きにされていた。

悠はひどく険しい顔つきのまま千枝を抱きかかえ、トイレを出てエレベーターへと直行する。

その足取りは驚くほど安定していた。千枝は彼の首にしっかりと腕を回し、こわばった顎のラインを見つめる。彼が怒っているのは明らかだった。

千枝は少し理不尽に感じた。さっき人違いをしたから怒っているのか、それとも朝食を食べ損ねたから怒っているのか。

廊下は本当に暗かった。非常灯のわずかな明かりがあるだけで、耳に届くのは革靴が床を叩く音だけだ。

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