第32章 原田麻友はただ観劇している

「ありがとうございます」

彼は淡々と礼を言った。

原田日菜は彼の声色に潜む素っ気なさに気づかず、すぐに悲しげな表情を引っ込め、彼と原田麻友を意味ありげに見つめる。

「あなた、前はずっと麻友のことが嫌いだって言ってたじゃない。麻友はきっと垢抜けない田舎娘に違いない、もし目の前に現れたら思い知らせてやるって」

「まさか、全部冗談だったなんてね!」

「あなた、麻友のことが好きだったのね!」

からかっているようで、その実、離間を謀る言葉だった。

原田麻友は平然としていた。

原田日菜がどんな人間か、彼女はとっくに承知しており、心の準備はできていた。

だが、中川裕大は違う。その言葉を聞...

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