第3章
春美さんにもその声は聞こえていた。彼女の顔が羞恥に赤らむ――浅野安樹のためではなく、私のために。
「結希、お願いだから」と、彼女は切羽詰まった声で囁いた。
「みんなが噂し始めてる。何か手を打たないと、このことが一生あなたについて回るわ」
一生。この規模の町では、彼女の言う通りだ。この話が私という人間を決定づけることになる。婚約者が人命を救うのを許さなかった、自己中心的な花嫁。でも、現実に起きているのはそんなことじゃないのに。
何人かがスマートフォンを取り出して撮影しているのに気づいた。近くにいた十代の少女は、明らかにライブ配信をしている。
「うわ、マジでヤバいんだけど」
少女はカメラに向かって言っている。
「なんか結婚式で超絶ドラマが起きてて。女の子が橋から飛び降りようとしてて、花婿が助けようとしてるんだけど、花嫁がマジでサイコみたいになってるの」
倉持早苗が私の腕を掴んだ。
「結希、みんなライブ配信してる。あっという間に拡散されるわよ」
まるで合図だったかのように、私のスマートフォンが通知で鳴り始めた。すべてのSNSの通知、それに、ここにはいないはずなのに既に動画を見た人たちからのテキストメッセージ。
C市にいる従姉妹からのメッセージ――「結希、何があったの??? TikTokで見たんだけど」
SNSの通知――「ポストにいいねがつきました」
「信じられない」
倉持早苗は自分のスマートフォンを見ながら息をのんだ。
「#緑渚町ウェディング がトレンド入りしてる」
最高じゃない。これで全世界が私の屈辱を見物することになる。そして、誰もが同じものを見るのだ――ヒーローの浅野安樹、被害者の白鳥日菜、そして怪物の、綾辻結希を。
春美さんは自分のスマートフォンを見て、顔を青ざめさせた。
「結希、もう報道の車が来てる。誰かが地元のテレビ局に電話したのよ」
町の人がさらに集まってきた。二十分前には私たちの結婚式を執り行うはずだった山崎牧師。結婚式のパーティーがどこにいるのかと訝しむ支配人。消防無線で状況を聞きつけた、浅野安樹の消防士仲間たち。
誰もが意見を持っていたが、そのどれ一つとして私に好意的なものはなかった。
「あのかわいそうな子」
中島さんが首を振った。
「あんなに若い子が、何がそこまで追い詰めたのかしら」
森田さんが言った。
「今の若い子たちは、本当の問題に対処できないから」
「まあ、浅野さんがいてくれて本当によかったわ」と渡辺さんが付け加えた。
「もし彼がいなかったら……」
そう言うとき、皆が私を見た。口には出されない非難は明らかだった――私が彼女を見殺しにしただろう、と。
山崎牧師が私に近づいてきた。その表情は親切だが、憂慮に満ちている。
「結希さん、今日はストレスの多い一日だったことでしょう。ですが、よろしければ一緒に祈りませんか? 関わったすべての人々のために」
「祈りが助けになるとは思えません、牧師」と私は返した。
彼の顔に浮かんだ衝撃は即座のものだった。緑渚町のような町では、牧師からの祈りの申し出を断ったりはしない。公衆の面前では。人々がすでにあなたの道徳的人格を疑っているときには、なおさらだ。
春美さんは屈辱に顔を歪めた。
「結希、お願いだから……」
浅野安樹は白鳥日菜に手を差し伸べられるくらいまで近づくことに成功していた。
「そうだ」と彼は励ました。
「俺の手を取って。一歩ずつでいい」
白鳥日菜は差し出された彼の手を見、次に彼自身を、そして私が立っている方へと視線を向けた。この距離からでも、彼女の瞳に浮かんだ打算の色が見て取れた。
「一緒にいてくれますか?」
彼女は尋ねた。
「一人になりたくないんです」
「もちろん」
浅野安樹は即座に答えた。
「もう君は一人じゃない」
彼女は彼の手を取った。
群衆は安堵の歓声と拍手で沸き立った。人々は泣き、抱き合い、浅野安樹の交渉成功を祝っていた。
そして、これだ。誰もが望んだハッピーエンド。浅野安樹が危機を救い、少女は生き延び、そして私はそれを止めようとした悪役。完璧な物語。ただし、すべてが嘘の上に成り立っているということを除けば。
白鳥日菜は手すりから無事に降り立つと、すぐさま浅野安樹の胸に崩れ落ちた。それは安堵のように見えたが、私にはそれがまったく別のもの――勝利――であることが分かっていた。
やったね。彼女はやり遂げた。彼に抱きしめさせ、慰めさせ、ヒーローにさせた。そのすべてを、打ち捨てられた花嫁が20メートル先から見つめる中で。
浅野安樹が白鳥日菜を助け、ちょうど到着した救急車の方へ向かうと、人々は散り始めた。だが、私に自分たちの考えをきっちり分からせることは忘れずに。
「信じられない」
誰かが呟くのが聞こえた。
「自分の結婚式の日に」
「かわいそうな浅野安樹。もう少しで結婚するところだった相手が、どんな人間だったか知ることになるなんて」
春美さんが私の元へ戻ってきた。泣いていたのが見て取れた。
「結希、なんて言ったらいいか分からない」
「じゃあ、何も言わないで」
「でも、言わなきゃ。だって、あなたのことも、安樹のことも愛してるから。どうしてこんなことになったのか、私には理解できない」
まだ私を愛してくれている。こんなことがあった後でも、春美さんはまだ私を愛してくれている。でも、彼女の瞳には疑念と、混乱と、失望の色が見える。私も彼女を失いつつある。
「多分、あなたが思っているほど、私のことを知らないのかもしれない」
私はそう口にしながら、その言葉を発した自分を憎んだ。
春美さんの顔がくしゃりと歪んだ。
「そうかもしれないわね」
倉持早苗が私の隣に現れた。
「結希、行かないと。今すぐに。報道陣が来る前に」
彼女の言う通りだった。ニュースと書かれたバンが停まるのがもう見えた。
私たちがウェディングカーの方へ戻っていくと、背後で誰かが大声で電話しているのが聞こえた。
「絶対撮りに来た方がいいよ! どうせTikTokで拡散されるだろうし。この花嫁、女の子が自殺しかけてる間、ただ突っ立ってたんだよ! 自分の結婚式の日に!」
振り返ると、それは去年高校を卒業したばかりの青山美咲だった。彼女はスマートフォンをまっすぐ私に向けていた。
「しかも今、すごい睨んでくるし!」
美咲は視聴者に向かって続けた。
「っていうか、あんたの方が――」
「美咲」
私は遮った。
「ネットに何を載せるか、気をつけた方がいいんじゃない」
彼女は目を白黒させた。
「はあ? 関係ないし。表現の自由でしょ、クソ女」
これだ。これが、私が記憶される姿なのだ。子供たちを気にかける教師、綾辻結希としてではなく。ボランティアをする綾辻結希としてでもなく。浅野安樹を愛し、結婚しようとした綾辻結希としてでもない。
人命よりも自分の結婚式を優先した、冷酷な花嫁、綾辻結希として。
倉持早苗が私の腕を取った。
「行こう。帰りましょう」
私たちが歩き去ると、美咲の声がさらに大きくなるのが聞こえた。
「うわ、マジでヤバい、これ絶対バズる! 私、TikTokで有名人になっちゃう!」
車にたどり着くかどうかのところで、私のスマートフォンが狂ったように鳴り始めた。次から次へと通知が殺到し、画面が絶え間なく光る。
隣で倉持早苗が自分のスマートフォンを確認していたが、その顔は真っ白になっていた。
「結希……うそでしょ」
彼女は画面を私に向けた。美咲のTikTokライブ配信は、すでに十五万視聴者を超え、急速に伸び続けている。コメントが毎秒何十件という速さで流れていく。
「誰かこの花嫁の正体を突き止めて」
「この女は悪魔だ」
「かわいそうな花婿にはもっといい人がいる」
「どうしてこんな奴が教師やってんの??? クビにしろ!」
十五分。たった十五分で、私は結婚を控えた花嫁から、公共の敵になってしまった。
「もうすでに違うアカウントからの動画が七つも上がってる」
倉持早苗は必死にスクロールしながら囁いた。
「結希、『#冷酷花嫁』がトレンド入りしてる」
駐車場からは、浅野安樹の救助活動が完璧に見えた。彼は白鳥日菜を手すりから無事に降ろし、今、彼女は救急隊員の毛布にくるまって橋の歩道に座っている。
だが、彼女は浅野安樹を離そうとしなかった。
「行かないでください」
彼女が言うのが聞こえた。
「私には他に誰もいないんです」
浅野安樹は彼女の隣に座り、穏やかな声で言った。
「ご家族のことを教えてくれるかな。誰か呼べる人はいる?」
