第5章
「今、なんて言ったの?」
母の声は、驚きで鋭かった。
「披露宴は中止。支配人に電話して、招待客に連絡して、全部中止するの」
「綾辻結希、今すぐ何があったのか説明しなさい」
フルネーム。お母さんが私をフルネームで呼ぶのは、怯えているか、激怒している時だけ。今は、たぶんその両方。
「お母さん、電話じゃ全部は説明できないけど、結婚はなしになったから」
「なしにって?結希、招待客は百五十人もいるのよ――」
「人数なんて分かってる。この結婚式の計画を立てたのは私なんだから、忘れたの?」
浅野春美さんが電話に手を伸ばした。
「結希?よかったら私が――」
「だめ」
私は電話を...
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