第153章 殴る

来た――!

ついに、来た。

前川俊輔が面会室へ連れて来られたとき、その足取りには抑えきれない焦りと期待が混じっていた。

扉が開く。顔を上げた。口元に浮かびかけた得意げな笑みは、咲く前に凍りつく。

高い位置の窓から斜めに射し込む陽光が、床に細長い帯を落としていた。

女は、その光の縁に座っている。逆光で表情は読み取りにくい。輪郭だけが、薄い金色に縁取られていた。

江島結奈。

前川家の人間でもない。風見雪音でもない。彼が待ち望んだ、どの「誰か」でもない。

――彼女だ。

前川俊輔の足が、その場に縫い止められる。静かな視線に、釘で打たれたみたいに。

「座れ」

背後の警官が、乱暴に...

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