第276章 ならキスする

 佐藤愛は呆れ果てていた。堂々たる北村グループの社長が、自分のような小娘相手に駄々をこねているのだ。会社では絶対に見せない姿だろう。

「辰兄、本当に遅刻しちゃうってば……」

 北村辰の要求を、佐藤愛はのらりくらりとかわそうとする。

 キスを拒まれた北村辰は、拗ねたように強引な手段に出た。手首を掴んで引き寄せ、佐藤愛をその腕の中に閉じ込める。磨いたばかりなのだろう、彼の吐息からはジャスミンの清涼な香りが漂った。

 彼は顔を近づけ、悪戯っぽい笑みを浮かべて囁く。

「愛がしないなら、僕からするよ」

 言い終わるや否や、彼はその赤い唇を塞いだ。佐藤愛には不思議な魔力がある。触れ合うだけで...

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