第324章 良き夫

 会社のロビーで北村辰を出迎えた高橋安は、その鋭い視線を走らせ、たちまちボスの一点に釘付けになった。北村辰の首筋に浮かぶ、淡い紅色の痕だ。

 昨晩、佐藤愛が北村辰の別荘に泊まったことは知っている。となると、あの首筋の痕が意味することは一つ。昨夜の二人は、よほど激しく愛し合ったに違いない。

(ボスがあれほどハッスルしたと知っていれば、気を使って、もう少し寝かせておいてやるべきだったか)

 じろじろと首元を見られていることに気づいた北村辰が、鋭い眼光を飛ばす。高橋安は慌てて視線を逸らしたが、内心では舌を出していた。

(別に、減るもんじゃないだろうに)

「高橋安、二つほど頼みたいことがあ...

ログインして続きを読む