第105章

吉崎直子の読みどおり、裏で糸を引く者は、彼女をそう長く待たせるつもりなどなかった。

その日の午後2時。

コンコン、と控えめなノックが鳴り、吉崎直子のオフィスの扉が開く。入ってきたのは営業一部のマネージャー、谷村健也だった。

手には数枚の書類。顔には、作り物めいた丁寧な笑み。

『吉崎様、失礼いたします。至急の書類が数件ございまして、ご署名をお願いできますでしょうか』

吉崎直子はちらりと目を落とし、そのまま受け取った。

ざっと目を通し、問題がないことを確認すると、迷いなくサインを入れて書類を返す。

――なのに。

谷村は受け取っても立ち去らず、その場に立ったまま、複雑な目で彼女を見...

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