第62章

周囲から悲鳴が上がった。誰もが、吉崎直子はこのまま勢いよく地面へ叩きつけられ、後頭部を打って大怪我をする――そう思った。

飛ばされた当の吉崎直子でさえ、同じだった。

けれど、覚悟していた痛みも、転倒の衝撃も来ない。

吉崎直子が落ちたのは、温かくて力強い腕の中だった。背後で、苦痛をこらえるようなくぐもったうめきが漏れる。

目を開けた瞬間、飛び込んできたのは羽島浩介のきつく寄った眉だった。彼女はその腕にしっかり抱き止められ、胸元へ倒れ込んでいる。

突然の体重も、落下の衝撃も――全部、羽島浩介が受け止めたのだ。だから彼女は無傷で済んだ。

『羽島浩介、あなた……』

吉崎直子は呆然と、目...

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