第70章

吉崎直子はその光景を目にした瞬間、口元がひくりと引きつった。我に返ると、反射的に一歩下がり、眉をきゅっと寄せる。

『……うちの部屋の前で、何してるの?』

『喉が渇いた。部屋に水がない』

羽島浩介は肩をすくめた。表情だけはどこまでも無垢そうなのに、口ぶりだけは妙に堂々としている。

『だから、君のところに来るしかなかった』

その理由を聞かされ、直子は言葉を失ったまま、顔をこわばらせる。

『まさか、キッチンに水がないとか言わないよね』

露骨な嫌悪を察したのか、浩介はちらりと自分のむき出しの胸元へ視線を落とした。言いたいことは明白だった。

『このままだと、まずくない? 誰かに見られた...

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