第81章

だが、吉崎由紀は知らない。

自分が病室を出た、その直後のことを。

本来なら『衰弱しきっているはず』の吉崎直子が、ゆっくりと目を開けた。瞳はすでに澄みきっていて、さっきまでの虚ろさも、焦点の定まらない迷いも、一欠片も残っていない。

直子は身を起こし、テーブルの上のコップを手に取って一口飲むと、ふう、と長く息を吐いた。

重病人のふりをするのも、案外体力勝負だ。

そんなことを考えた、その時だった。

病室の扉が再び開く。

今度入ってきたのは、羽島浩介だった。

手には保温のランチボックス。ベッドの上で何かを思案しているように座る吉崎直子を見て、彼は口を開く。

「どうだった?」

「見...

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