第50章

稲垣栄作はおそらく会社から来たのだろう。

三つ揃いの英国式スーツを、彼は極めて洗練して着こなしていた。若くて端正な顔立ちながらも、成功した男性特有の魅力を眉目に宿している。

若い女性たちが何人も、こっそりと彼を見つめていた。

そんな慕わしいまなざしには既に慣れている稲垣栄作は、真っ直ぐに高橋遥の前まで歩み寄り、顔を上げて映画の巨大なポスターを見た。「これが見たいの?」

高橋遥は密かに手の中の映画チケットを握りしめた。

彼女は浅く微笑んで否定した。「ただコーラを買いに来ただけよ!」

稲垣栄作の黒い瞳は深く沈んでいた。

彼は静かに彼女をしばらく見つめた後、自ら彼女のためにコーラを一...

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