第30章 本当に少しも気にしないのか

ドアの向こうで、相澤永知のノックがさらに焦れったく速くなる。

「茜、大丈夫か?」

横で周防哲が宥めるように言った。

「相澤、ここ女トイレだぞ。俺らが突っ立ってたらまずいって……日向さん、ほんとに具合悪いだけかもしれないし」

個室の中では、真田修一の手が遠慮もなく身体を這い回っていた。

彼女が声を出せないのは分かっている。逃げ場のない相手を握りつぶす、その錯覚めいた全能感を、彼は愉しんでいる。

胃の奥で煮え立っていた痛みが、外の刺激で一気に爆ぜた。

日向茜の視界が、ぐらりと暗く揺れる。

茜は勢いよく右腕を上げ、手の甲で口を塞いだ。

そして――噛みついた。

歯が皮膚を突き破り...

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