第52章 林田知代との婚約式は延期となる

「――太郎を助けてくれて、ありがとう」

真田修一の口から吐き出されたその言葉は、どこかぎこちなかった。命令する側で生きてきた男だ。頭を下げるのは、得意じゃない。

日向茜は乾いた声で返す。

「いいえ。子どもがいたことがあって、そして失ったこともある母親なら……誰でも反射的に、そうするだけです」

「ほかの子が階段から落ちたって、私は受け止めます」

「助けたのは条件反射。……今はもう、後悔してます」

真田修一の瞳に揺れたものが、一瞬で氷に覆われた。

「ベッドに戻って寝ろ」

「どいて。退院する」日向茜は彼を避け、ドアノブへ手を伸ばす。

次の瞬間、真田修一が彼女の手首を掴んだ。傷口を...

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