第68章 取引

風が二人のあいだを唸り声みたいに吹き抜ける。佐伯樹の詰問が日向茜の耳に刺さった瞬間、彼女は考えるより先に答えていた。

「私が行く」日向茜は半歩退き、きっぱりと言い切る。「あいつはイカれた野郎よ。何だってやる。私一人の命のせいで、島じゅう巻き込むわけにはいかない」

そう言い捨てると、踵を返して戻ろうとした。子どもを抱き上げに行くつもりだ。

だが佐伯樹が腕を伸ばし、真正面から進路を塞ぐ。白衣のポケットを探り、取り出したのは真っ黒な磁気カードだった。それを日向茜の目の前へ差し出す。

「実験基地へ行け。道はわかるか?」

日向茜はその場で固まった。黒いカードを見つめても、佐伯樹の意図が読めな...

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