第50章睡眠時間の蛇行

 ダックス――

 ベアの肩ががくりと落ち、顔から血の気が引いた。瞳には涙がみるみる溜まり、どうにか目をそらすまいとしていたが、こらえきれなかった。涙はまぶたを越えて頬を伝い、傷痕の上を流れ、上唇の上に盛り上がった分厚い瘢痕にいくぶん溜まった。

「ダックス」

 彼の名を呼ぶ彼女の美しい声はやわらかく揺れ、それだけで彼の胸はきゅっと縮んだ。

「部屋まで連れて帰って、抱いていて。こんな気持ちの私を、こんな見た目の私を受け止められるなら……でも本当は、ただ眠りたいの」

 声は震えていなかったし、迷いもなかった。彼はもう一度、彼女の狼の心の壁へと意識を伸ばした。鈍く沈んではいたが、なお内側から...

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