第93章 この愚か者め

「知らないわ。葉山社長みたいに、そんな強烈な覗き見趣味は持ち合わせてないもの。良介さんは私によくしてくれるし、お父さまもすごく穏やかな方よ。あの人たちは……母以外で、私に一番優しくしてくれた人たちなの」

あの頃――彼女がM国で一番追い詰められていたとき、学費を出して学ばせてくれたのは千崎家だった。師匠に取り次いでくれたのも千崎家。そこから先のファッション業界での伝手も、身分を伏せるための段取りも、ほとんどが千崎良介の助けによるものだ。

母が生きていた頃にしか知らなかった温もりを、彼らはもう一度くれた。小林茉由の胸の中では、千崎良介も千崎おじさんも、いつの間にか「家族」になっていた。

葉...

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