第326章 ベイビー、着いたよ

夕暮れ時、斎藤蓮が顔を輝かせ、小走りで戻ってきた。だが鈴木夏美がその様子に微笑む暇もなく、鬼島擎の表情が普段にも増して凍りついていることに気づく。思わず肌が粟立つほどの冷気だった。

夏美は訝しげに鬼島へと視線を走らせた後、蓮の手を取った。

「ずいぶんと嬉しそうね。何かあったの?」

いつもの柔らかな感触とは違う。掌に触れた小さな異物に気づき、夏美が視線を落とすと――蓮の薬指には、煌めくダイヤの指輪が嵌められていた。石こそ小粒だが、デザインは洗練されている。

(鬼島擎、手が早すぎない?)

夏美がそう邪推する間もなく、蓮に背中を押され、椅子に座らされる。

「鈴木さん、聞いてください! 星野...

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