第344章 彼女のために

「外は冷え込む。まずは車に戻れ」

高橋隆一は警告を含んだ冷ややかな視線を彼女に一瞥させただけで、それ以上は何も語らず、踵を返して鈴木夏美を連れ去っていく。

その二人の後ろ姿は、憎らしいほど釣り合っていた。男が差し掛ける黒い傘が、鈴木夏美に降りかかる風雪をすべて遮断している。

白石知子は悔しさのあまり奥歯を噛み締め、涙を浮かべて絶叫した。

「あいつのどこが私よりいいのよ! 少しぐらい私を見てもいいじゃない!」

高橋隆一は、一度も振り返らなかった。

白石知子は敗北感に打ちひしがれ、車椅子の肘掛けを拳で叩く。

唯一の退路さえ断たれてしまったのだ。

この好機を自らの手で潰してしまったの...

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