第355章 この人……知ってるか?

鈴木夏美は少しきまり悪そうにうつむいた。

「そんなこと……思ってません」

高橋隆一を前にすると、彼女はいつも無意識に身を引いてしまう。なぜそんな拒否反応を示してしまうのか、鈴木夏美自身にもわからなかった。

高橋隆一が手を離すと、鈴木夏美はドレッサーの前から立ち上がり、窓辺へと歩み寄った。

窓の外には幾重にも重なった雲が広がり、澄み渡る蒼穹を覆い隠そうとしていた。

高橋隆一が口にした今後の手筈を思い出し、胸が締めつけられるような思いがした。

幼い頃からこの土地で暮らし、長い月日を過ごしてきたのだ。この街への愛着は深く、突然の別れを受け入れるのは容易ではない。

新生活への期待と、過去の記憶へ...

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