第430章 彼女はあなたを待っている

高橋隆一の手が、ふと止まった。彼は櫛に絡みついた髪の毛を取り除くと、それをそっと隠すように仕舞い込んだ。

「どうしたの?」

 鈴木夏美は彼の動きに違和感を覚え、不思議そうに問いかけた。

 化学療法の副作用が激しいことは知識として知っていた。だが、理屈で分かっているのと、それを目の当たりにするのとでは、まるで次元が違う。

 お洒落な夏美が、髪を失っていく自分を受け入れられるはずがない。

 枕の上には無数の黒髪だけでなく、白髪さえも散らばっていた。

 いつの間にか、彼女の身体はそこまで蝕まれていたのだ。

 高橋隆一は髪の毛をゴミ箱に捨てると、その上にティッシュを被せて隠した。

「何...

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