第43章

相馬千冬が安井綺世を強引に引き留めてからというもの、家の中は奇妙な平穏に包まれていた。

一つ屋根の下に暮らしていながら、二人は十日も半月も顔を合わせず、たまに出くわしても一言も言葉を交わさない。

家政婦の伊東でさえ、相馬夫妻が典型的な「仮面夫婦」であることは察していた。

だが、二人の状態は赤の他人のそれとは違い、互いに意識して避けているようにも見えた。

そんな状況に、二十年近く相馬千冬の世話をしてきた伊東は、居ても立ってもいられなくなった。

彼女は相馬家の古株であり、安井綺世と相馬千冬が幼馴染として育ち、結婚し、そして現在のように互いを疎むようになるまでの全てを見てきたのだ。

安...

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