第58章

安井綺世は、安井雅子という女の厚顔無恥ぶりを、明らかに甘く見ていた。

自分にはまだ羞恥心というものがある。だからこそ、雅子が相馬家にまで押しかけて騒ぎ立てるような真似はしないだろうと高を括っていたのだ。

だが、雅子には世間体などという概念は欠片も存在しなかったらしい。

あろうことか、彼女は堂々と『雲翔テック』のビル前に横断幕を掲げ、衆人環視の中で喚き散らし、地団駄を踏んで暴れ回っていたのだ。

人だかりの中からは、社員たちのひそひそ話が漏れ聞こえてくる。

「あの女、誰だ? 安井綺世って人を探してるみたいだけど」

「安井綺世って誰だよ」

「知らないのか? 社長の資産顧問だよ。泣く子...

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