第36章

新谷音羽は、柳沢雲子のあの手柄をねだるような顔を見た瞬間、胸の内で警報がけたたましく鳴り響いた。

林翔太の罠からようやく抜け出したばかりだ。こんな唐突な「善意」を、のこのこと信じられるほど彼女は甘くない。

「……そうなの?」

音羽の声色には、喜怒の欠片も滲まない。彼女は柳沢をやり過ごすように自分の椅子へ腰を下ろし、静かな視線だけを相手に向けた。

「それはどうもありがとう。でも、ちょっと気になるの。どうやってお客さんを説得したの? 午前中に来たときは、私のこと噛み殺したいみたいな顔してたけど」

柳沢の表情が、ほんの一瞬だけひきつる。けれどすぐ、世話焼きな顔を作り直してみせた。

「私...

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