第56章

彼に握られた指先を、音羽はどこか居心地悪そうにもぞもぞ動かした。視線を落とし、小さな声で言う。

「私……ちょっと、勢いでやりすぎた?」

蒼井沢言は答える代わりに、彼女の手を取り直し――今度は逃がさないと言うみたいに、ぎゅっと握り込んだ。

伏せたまつ毛の影の下、黒い瞳がまっすぐ音羽を射抜く。いつもは底の見えないその目に、彼女が見たこともない熱が渦巻いていた。

「いいや」

喉仏がゆっくり上下し、声がかすかに掠れる。

「君は、さっき……すごくよかった」

彼女は自分のために、全身の棘を逆立てた。

英勇な小さな獣みたいに、とうに荒れ果てたはずの自分の領地を守ってくれた。

「音羽」

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