第9章

車はグランドタワー白金スカイテラスを滑るように離れ、車内には沈黙だけが落ちていた。

蒼井沢言はそのまま、会員制に近いほど個室性の高い私房菜の店へ車を入れる。

席に着くと、彼はメニューに目もくれず、慣れた口ぶりでいくつか料理名を告げた。どれも薄味で、身体を温める滋養のある品ばかり。

新谷音羽は黙って聞いて、口を挟まない。

この人といるとき、自分は「きちんとした蒼井夫人」を演じていればいいだけだ。そう気づいてしまう。

「君が常盤ジュエリーでしていた仕事だが」

蒼井沢言は向かいに座り、スマホをテーブルへ無造作に置いて、何でもないことのように言った。

「木村秘書に退職手続きをさせた」

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