第10章

松野里奈視点

稲妻に打たれたような頭痛だった。涼真の全身がこわばり、手が頭へと飛ぶ。

「涼真?」私は彼に腕にしがみついた。「どうしたの?」

「私は……」彼の目の焦点が合わなくなる。「思い出した」

心臓が止まった。「何を?」

「新婚旅行のことだ。半年かけて計画した」彼の声は奇妙だった。どこか遠い。「あらゆるリゾートを調べて、最高の水上スイートを探した。プライベートプールと、魚が見えるようにガラス張りの床があるやつだ」

「涼真……」

「君は退職した。覚えてる。私のオフィスで、泣いてる君を抱きしめた。『一緒になるなら、もうあなたのために働けない』って君は言った。だから私は言ったん...

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