第4章
松野涼真はノートパソコンの画面を睨んでいた。空の投稿欄でカーソルが点滅している。午前二時。眠れなかった。
その掲示板は「人生相談」という名で、匿名で「複雑な個人的状況」を抱える人々のためのもの、ということだった。
彼は打ち込んだ。「私の契約妻が、私のことを口説いてもいいと同意してくれました。次の一手はどうすれば?」
ページを更新する。反応なし。もう一度更新。やはり何もない。
立ち上がって窓辺まで歩く。この街のどこかで、里奈は今頃、あのケーキ屋の上にある小さなアパートで眠っているのだろう。
ノートパソコンがブーンと鳴った。掲示板の通知だ。
ユーザー8842、「(笑)ドラマでも一気見したのか? 契約妻って。おいおい、テレビ番組じゃないんだぞ」
ユーザー3391、「マジでな。『契約結婚』とか、おいおい頼むぜ」
涼真は奥歯を噛みしめた。素早く返信する。「本当のことだ。二年間の契約。ビジネス上の取り決めだ。彼女は資金が必要で、私は遺産相続のために結婚する必要があった。契約はあと二ヶ月で終わる」
送信を押し、さらに付け加えた。「彼女は私がアプローチすることに同意してくれたが、まだ別居している。次に何をすべきか分からないんだ」
途端に、反応ががらりと変わった。
ユーザー8842、「マジかよ、本気だったのか」
ユーザー7283、「オーケーオーケー、もしこれが本当なら……おい、お前らまだ夫婦なんだろ。彼女を呼び戻して同居しろ。距離が近ければチャンスも増える」
ユーザー4429、「これだ。法的には夫と妻なんだ。別居してるなんて意味が分からん」
涼真の脈が速くなる。彼は打ち返した。「ずっと別居してきたんだ。あまりに突然すぎないか?」
返信が殺到した。
ユーザー9156、「会社のために、ちゃんとした家庭のイメージを保つ必要がある。そこを切り口にしろ」
ユーザー7283、「その通り。あくまで体裁のためだと言え」
ユーザー4429、「そして彼女が戻ってきたら、機会を作るんだ。一緒に朝食をとったり、映画を観る夜を設けたり。さりげないスキンシップとか」
涼真はノートを掴み、すべてを書き留め始めた。彼のペンは速く動き、重要なフレーズにアンダーラインを引いていく。家庭のイメージを保つ。契約上の義務。接触機会を増やす。
ユーザー6621、「おいおい、考えすぎだろ。彼女はもうお前がアプローチしていいって言ったんだ。お前に一歩踏み出してほしいんだよ」
本当にそうだろうか? 涼真はケーキ屋での彼女との会話を思い返した。「いい」と言う前に、彼女がためらったあの様子。あれは決して乗り気とは言えなかった。
だが、彼女は「いいわよ」と言った。それには何か意味があるはずだ。
彼はノートに目を落とす。インターネット上の他人からのアドバイスで埋まったページ。情けないにもほどがある。自分は大手企業を経営している。何十億もの取引だって交渉してきた。なのに、なぜこれがこんなにも難しいのか?
なぜなら、どの取引も、これほど重要なものではなかったからだ。
涼真はノートパソコンを閉じ、自分のメモを見つめた。明日、彼女に頼んでみよう。
松野里奈視点
私がバタークリームを絞っていると、涼真が店に入ってきた。
「こんにちは」と彼が言った。
「どうも」私はケーキから目を上げずに答えた。「いつもの?」
「いや、実は、話したいことがあるんだ」
その真剣な口調に、私は顔を上げた。彼は緊張しているように見えた。両手をポケットに突っ込み、眉間に小さなしわが寄っている。
ああ、もう。掲示板は彼に何をアドバイスしたのかしら。
直樹がスクリーンショットを送ってきてくれていたのだ。涼真の匿名投稿は、彼が思うほど匿名ではなかった。直樹は兄の文体をすぐに見抜いたのだ。
「何?」私は絞り袋を置いた。
涼真は息を吸い込んだ。「突然に聞こえると思うのは分かっている。でも、契約のことを考えていたんだ」
心臓の鼓動が速くなる。「はい?」
「私たちはまだ法的には夫婦だ。あと二ヶ月間は。そして外から見れば、普通の夫婦に見えるべきだろう? 会社のイメージのためにも。取締役会も、投資家たちも、私たちが幸せな結婚生活を送っていると思っている」
エプロンで手を拭いながら、笑みをこらえるのに必死だった。「何が言いたいの?」
「君に、家に戻ってきてほしいんだ」言葉が堰を切ったようにあふれ出す。「私たちのことじゃなくて、ただ体裁のためだ。その方が仕事上も理にかなっている。社長が妻と別居しているなんて、疑問を招くから」
「涼真――」
「これまでずっと離れて暮らしてきたことは分かっている」彼は早口で続けた。「君にはここに自分の場所があることも。でも、まだ契約は終わっていないし、私はただ……」彼はそこで言葉を切り、私をまっすぐに見つめた。「君にそこにいてほしい。見せかけだけじゃなく。君のことを知りたいんだ。好きな朝食は何か、どんなテレビを観るのか、コーヒーの好みはどうか。私が知っているべきなのに、何も知らないこと全部を」
まったく、こういうのは得意なんだから。
三年前、彼のプロポーズは「結婚してくれ、時間を無駄にしたくない」だった。それが今では、私のコーヒーの好みを知りたい、だなんて。
私は腕を組み、不安そうな表情を作った。「どうしようかな。もうすぐこの契約も全部終わるのに。今さら一緒に住むなんて……」
「お願いだ」彼の声が、より柔らかく、より無防備なものに変わった。「この最後の二ヶ月だけでいい。たとえ一時的だとしても、本当の夫にならせてほしい。君に朝食を作って、今日一日のことを聞いて、ただ……そばにいさせてほしいんだ」
「もし二ヶ月経っても君が出ていきたいと思うなら」と涼真は言った。「引き止めない。約束する。でも今は、まだ私たちが夫婦である間に、試させてほしい。私がどんな人間なのか、君に見てほしいんだ」
私は考えるふりをした。
「いいよ」と、ついに私は言った。「でも、部屋は別々にしましょう。それに、生活もほとんど別々。これはあくまで体裁のためだからね」
彼の顔にぱっと広がった笑顔は、まるで太陽の光そのものだった。「うん。もちろんだ。君が望むようにする」
「本気だからね、涼真」
「分かってる。約束する」彼はほとんど足踏みでもしそうな勢いだ。「いつ引っ越せる? 荷造りを手伝うよ。引っ越し業者も手配する。必要なものは何でも言って」
「今週末、かな」
「完璧だ。土曜日。九時に行くよ」彼はすでに子供のようにニヤニヤしながら、ドアに向かって後ずさりしていた。「ありがとう、里奈。後悔はさせないよ」
彼が去った後、私は携帯を取り出した。
「やったわ。掲示板のアドバイス、うまくいった」
「爆笑。あの投稿見たよ。『家庭のイメージを保つ』って、すごいセリフだよな」
「私のコーヒーの好みを知りたいって、すごく真剣だった」
「兄さんは恋愛に関しては大惨事だけど、それが最高に面白い」
土曜日の朝、涼真は八時四十五分に現れた。十五分前行動。コーヒーとベーグルを手にしていた。
「まだ何も食べてないかと思って」と彼は袋を掲げて言った。
直樹は十分後にSUVでやって来て、涼真の顔を見るなり笑い出した。
「何だよ?」と涼真が尋ねた。
「いや別に。ただ、すごく……張り切ってるなって」直樹の目が私を捉えた。そのメッセージは明白だった。「これ、面白すぎるんだけど」
荷物のほとんどは、前の週にまとめておいた。私が「家を出る準備」をしていた時に運び出したものたち。今、私はそれをまた運び戻しているのだ。
涼真は、すべてを自分で運ぶと言って聞かなかった。軽い箱でさえも。クッションの入った袋までも。直樹が車に荷物を積み込むのを手伝う間、涼真はうろうろと付きまとい、三十秒ごとに何か必要なものはないかと尋ねてきた。
「大丈夫」と私は五度目に言った。
「本当に? 休憩しようか。コーヒーでももっと飲む?」
「涼真」私は彼に腕に手を置いた。私の感触に彼が凍りつくのが分かった。「落ち着いてください。ただ箱をいくつか運ぶだけだから」
「ああ。うん。ごめん」しかし彼は落ち着いていなかった。ただ動き続け、手伝い続け、目を離したら私が消えてしまうとでもいうように私を見つめ続けていた。
彼の家までのドライブは静かだった。直樹は自分の車で後をついてくる。涼真の両手はハンドルを握りしめ、指の関節が白くなっていた。
「緊張してるの?」と私は尋ねた。
「少しね」
「自分の家なのに」
「ああ、でもこれからは君がそこにいる」彼はちらりとこちらを見た。「それは違うんだ」
全然違わないのに、と私は思った。私はもう二年もそこに住んでいるのだから。
しかし、私たちが車を寄せた時、家は違って見えた。芝生は刈り込まれたばかりで、通路沿いには花が植えられていた。すべてが新しい。
涼真は私がそれに気づいたことに気づいた。「昨日、造園業者に来てもらったんだ。綺麗に見せたかったから」
直樹が私の窓のところに現れた。「兄さん、三日間ストレスで掃除しまくってたんだぜ。家中ピカピカだ」
「うるさい」と涼真は呟いたが、耳が赤くなっていた。
「君の部屋は二階だ」涼真は先導しながら言った。「その、ええと、準備しておいたんだ。新しいシーツと、生花を」
彼はドアを開けた。
中に足を踏み入れた瞬間、胸が締め付けられた。
それは私の部屋だった。数週間前に私が去った、あの部屋。しかし、完全に改装されていた。
新しいカーテン。真っ白ではなく、柔らかなクリーム色の新しい寝具。窓際には、以前はなかった読書用の椅子。ベットサイドテーブルには本が置かれている。
「もし気に入らなかったら、全部変えられるから」と涼真は早口で言った。「ただ、君に快適に過ごしてほしくて。直樹に君が何を好きそうか聞いたら、もっと良い読書灯が欲しいって言ってたって言うから、それでこの椅子とランプを追加して、それから――」
「完璧よ」
彼はまくしたてるのをやめた。「本当に?」
「ええ」私はバッグを置き、椅子の生地に手を滑らせた。柔らかいベルベット。私のお気に入り。「ありがとう」
直樹が部屋に顔を突っ込み、あたりを見回してから、これ以上ないほどの意地悪な笑みを浮かべて私を見た。
「いい部屋じゃん、お姉さん」彼の声にはからかいの色がたっぷり含まれていた。「すごく……思いやりがあるね」
私は彼を一瞥した。彼はニヤリと笑うだけだった。
涼真は気づいていない。クローゼットに十分なハンガーがあるか確認するのに忙しすぎたのだ。
「ゆっくりくつろいで」と彼は言った。「でも、何か必要なら、廊下のすぐ向こうにいるから。本当に、何でも言って」
「分かってる。本当にありがとう」
彼はドアのところで一瞬ためらった。まるで去りたくないかのように。そしてついに頷くと、歩き去っていった。
直樹は涼真が階下に降りるのを待ってから、身を乗り出してきた。「兄さんは、何日も前からこれ計画してたんだぜ。色のコーディネートまで全部。クッションの配置について、十七回も質問してきたんだ」
「やめて」
「『女性を家で歓迎されていると感じさせる方法』ってググってた」
「直樹くん――」
「ここ数年で最高のエンターテイメントだよ」彼は私の肩をぽんと叩いた。「ショーを楽しんでくれよ、姉さん」
二人が私を一人にして去った後、私はベッドの端に腰掛けた。
私のベッド。私の家にある。涼真が、そこがすでに私の部屋だったことを覚えていなくて、リフォームしてくれた部屋。
正気の沙汰じゃない。でも、面白すぎる!
