第50章

江原安美は、振り返らなかった。

部屋へ戻り、扉を閉める。窓辺のソファに腰を下ろし、ガラスの向こうの海をぼんやり眺める――気づけば、午後がまるごと溶けていた。

夕暮れ、川崎佑哉がドアを叩いた。

江原安美は開けない。

「江原安美」

扉越しの声は少しこもっていた。

「今夜、デッキでイベントがある。出てこないか。海見ながら、少し歩こう」

「いい」江原安美は短く返す。「疲れてるの」

外が、数秒黙る。

「鈴村千雪は、俺が呼んだんじゃない。今日のおまえの言い方は……少しきつかった」

言い訳めいた間を挟み、さらに付け足す。

「別に肩入れしてるわけじゃない。ただ、あいつ身体が弱いんだ。医...

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