第62章

陸田明広は、ずっと手に提げていた栄養食の入った袋を病室のテーブルへ置き、江原安美に視線を落とした。

ベッドに横たわる安美の顔色は紙みたいに白い。唇にも血の気がない。

明広はそっと歩み寄り、その手を包むように握った。

『安美……』

喉を震わせないよう、声を絞る。

『遅くなって、ごめん』

返事はない。安美はまだ眠ったままだ。

明広は彼女を見つめ、目の縁を赤くした。

『もし、あのとき俺が先に気持ちを伝えて……おまえを嫁にしてたら。今ごろ、俺たち……幸せになれてたのかな』

昏睡の安美は、もちろん答えない。

それでも明広はベッド脇を離れず、汗を拭い、水を含ませ、片時も目を離さなかっ...

ログインして続きを読む