第5章 結婚の破綻、彼女とは無関係

ネット上の世論は、前にも増して騒がしかった。紀藤瑛介の名は再びトレンドの最上位に張りつき、彼の会社の株価はさらに下落する。あの公の反論は、完全に逆効果だった。

秘書のもとには電話がひっきりなしに入る。けれど今の紀藤瑛介に、それを伝えに行く勇気などない。広報にトレンド対策を急がせるしかなかった。

一方そのころ、結城凝香はようやく目を覚ましたところだった。

昨夜は無理やり別荘へ連れ戻され、せっかくの気分に水を差された。だが、紀藤瑛介が世論に振り回されて機嫌を悪くしている――そう思うだけで、胸の奥がすうっと軽くなる。

気分がいいと、眠りも深い。

一夜ぐっすり眠ったせいで、日差しがカーテンの隙間から細かくこぼれ、ベッドをきらきら照らす頃になって、ようやく目が覚めた。

スマホを開くと、ちょうど紀藤瑛介の声明が目に入る。それを見た途端、凝香の機嫌はさらに上向いた。

朝食を済ませたあと、結城凝香は高橋弁護士に連絡し、面会の約束を取った。

「紀藤夫人、離婚協議書の内容を変更されますか」

高橋弁護士は、以前彼女が署名した協議書を取り出す。

結城凝香はうなずいた。

「高橋弁護士。葉月清奈の妊娠検査の報告書って、紀藤瑛介の不貞の証拠になりますか? 財産分与を有利にできます?」

ここ数日、紀藤瑛介のトレンドはネットを騒がせ続けていた。高橋弁護士も当然把握している。少し言葉を選び、向かいの彼女を見た。

「紀藤夫人。妊娠検査の報告書を確保できて、なおかつ、その子が紀藤社長の子だと証明できれば、相手方は有責になります。その場合、財産分与で有利になる可能性は十分あります」

結城凝香は理解した。証拠は厳密でなければならない。相手に一切言い逃れの余地を与えない形で。

「わかりました」

高橋弁護士は、彼女が本当に理解したのを見て、協議書をいったん引っ込めた。

別れた帰り道、結城凝香のスマホに通知が届く。タイトルを見た瞬間、反射的にタップしていた。

生配信の記者会見。主役は葉月清奈だった。

顔色はやややつれて見える。それでも美しさは隠しようがない。身体に沿うベアトップのドレスが、均整の取れたラインを際立たせ、首元のジュエリーはライトを受けて眩いほどに煌めいていた。

妊娠はまだ初期で、お腹はまったく目立たない。誰が見ても、彼女が妊婦だとは気づかないだろう。

悲劇のヒロインを演じながら、美しさだけはきっちり刻みつける。何もかも計算ずく――そうとしか思えなかった。

葉月清奈はマイクを握り、会場が静まるのを待って口を開く。その声がホールいっぱいに響いた。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。この記者会見を開いたのは、いくつか誤解を解いておきたかったからです。これ以上黙っていたら、皆さんが真実を知らないままになってしまうので」

「まず、ここではっきり申し上げます。私は一度も紀藤瑛介社長を誘惑したことはありません。ご家庭を壊したこともありませんし、愛人でもありません」

「それから、ネットに出回っている写真ですが、あれは意図的に誤解を招く角度で撮られたものです。結城さんに、私と紀藤社長の関係を誤解させるための悪質なものなんです。結城さんが私を敵視するよう仕向けるための……!」

「結城さんは、紀藤社長と私に不適切な関係があると決めつけて離婚を持ち出し、さらには事実無根の発言までしました。すべて誹謗中傷です。してもいないことを、どうして私が背負わなければならないのでしょう……どうして、こんなことを……」

「世論の圧力のせいで、ここ数日まともに眠れていません。精神的にもかなり参っていて……」

言葉の途中で、涙がつうっと頬を伝った。声を荒げて泣くわけではない。ただ静かに涙を流す――それがかえって同情を誘う。

「紀藤社長が来た!」

誰かが叫んだ瞬間、会場の視線が一斉に入口へ向いた。

姿を現したのは紀藤瑛介。彼がここに来たという事実だけで、すでに答えを示したも同然だった。

皆が待っている。紀藤瑛介の反応を。

紀藤瑛介は壇上へ上がり、マイクを手に取ると、記者たちをひととおり見渡した。

「いくつかの質問には答える。ただ、その前に言っておくことがある」

「第一。あの日ホテルへ行ったのは、葉月さんの体調が優れなかったからだ。俺は彼女を送っただけだ」

「第二。葉月さんとは以前、交際していた。関係も良好だったが、諸事情で結婚には至らず、その後、俺は結城凝香と結婚した。今の葉月さんと俺は友人だ」

「第三。俺と結城凝香の結婚が破綻した理由を、葉月さんのせいにしないでもらいたい。この件は彼女とは無関係だ」

会見を見ながら、結城凝香の唇には薄い嘲りが浮かんだ。

理由が何であれ、結婚したのは事実だ。本気で結婚したくなかったのなら、最後まで抗い、葉月清奈を娶る道を貫けばよかった。

それなのに彼は結婚し、凝香には冷たい仕打ちを続け、葉月清奈には変わらず甘く、関係も切らなかった。

軽蔑する。やることはやっておいて、認める勇気すらない。子供までいるくせに、ホテルでは何もなかったなどと、誰が信じるというのか。

家へ戻った結城凝香は、すぐに秘書へメールを送った。対外的に「協業先を探している」という情報を流すよう指示する。

結城凝香はこの三年間、家庭に入り、紀藤瑛介を中心に生きてきた。だが何もできない飾りの妻ではない。彼女には彼女の仕事があった。

三年前に中断したのは、単なる学業ではない。専門性の高い学びで、しかも彼女はすでに評価を得ていた。世間が思っているような、まともに学歴もない女ではないのだ。

秘書の莉々はメールを読むなり、抑えきれない興奮をそのまま電話に乗せてかけてきた。

通話がつながるなり、莉々は息を弾ませて言う。

「凝香さん、本当に仕事に復帰するって決めたの? しかも、パートナー探しまで始めるの?」

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