第60章 あるいはただの偶然

「大丈夫」

結城凝香は小さく首を振り、誰かに引きずられていく藤本剛志へ視線を向けた。

――これで十分だ。罪に問えるだけの材料は揃った。あんな吐き気のする人間は牢に放り込んで、一生出てこなければいい。

彼女が本当に無事だと確認できて、紀藤瑛介はようやく胸の奥に張りついていた重石を下ろした。

「行こう」

洞窟は薄暗く、湿った土と何かが腐ったような匂いが漂っている。瑛介はこれ以上ここに留まる気になれず、凝香に声をかけると先に出口へ向かった。

ひとしきり手間取り、ようやく一行は道路へ戻る。

瑛介は秘書たちを帰らせたあと、凝香を自分の車に乗せた。

運転席に座っても、すぐには発進しない。...

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