第91章 別れの夜の狂気(1)

葉山天という男は、惚れた相手にはめっぽう弱い。逆に興味のない女なら、どんなに美人だろうと指一本触れる気にはなれない。そのあたりの潔癖さと矛盾した品性は、自分でも認めているところだ。決して聖人君子ではないが、かといって卑劣な小悪党でもない。強いて言うなら、少しばかり「女好き」なだけだ。

水原玲子は、幼い頃からの初恋の人だった。あの時、想いを伝えていれば——そんな後悔は尽きないが、今さら何を言っても手遅れだ。道ならぬことだと頭では分かっている。それでも、心の中で猛る獣のような欲望を、葉山天は抑えきれずにいた。

ふいに立ち上がった水原玲子が、葉山天の隣に腰を下ろす。白魚のような指先が太腿に触れ...

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